AI vs 教科書が読めない子どもたち
AIで東大入試に挑戦するプロジェクトを率いておられた、
数学者の新井紀子さんの著書です。
この本の主題は、
"AI(正しくはAI技術)は、人間の仕事を奪うか?"というものです。
結論としては、端的に言えば「置き換えられる仕事はあるものの、残る仕事もある」です。
なぜか?
AIはあくまでコンピューターであり、論理、確率、統計で表現できるものしか扱えないのです。
言い換えれば、AIは"意味"を理解することができない、
本の中の言葉を借りるなら、「私はあなたが好きだ」と「私はカレーライスが好きだ」という2つの言葉の違いをAIは本当の意味で理解することができないのです。
しかし、裏を返せば論理、確率、統計で表現できる仕事、処理できる仕事は置き換えられる可能性がありますし、
もし人間がAIと同様に"意味"を理解できないのであれば、AIに対して優位であると言えないのです。
著者は中高生を対象に大規模な読解力を測定するテストRST(Reading Skill Test)を実施し、
・中学校を卒業する段階で約3割が(内容理解を伴わない)表層的な読解もできない
・学力中位の高校でも半数以上が内容理解を要する読解ができない
と言ったことを明らかにしています。
読解ができないということは、本書のタイトルにもある通り、教科書が読めないということに他なりません。
このような状況では、AIが意味を理解できないまでも人間の仕事は代替されていく可能性があります。
本書でも主張されている通り、AIによって労働力は二分される可能性が高いです。
現時点で、その二分のラインがどこに、どのように引かれるかは定かではありません。
しかし、ラインを下回る人は導入コストが低下していくAIと職を争うことになります。
そのような状況では、
低賃金でも働かざるを得ない→その賃金をAIの導入・運用コストが下回る→さらなる低賃金で働かざるを得なくなる
という悪循環が待っています。
私は楽観主義ですし、実際に本書ではそのような世界で人間が生きていく術として
ブルーオーシャンで戦うことが提示されています。
場合によってはベーシックインカムの導入が提唱されることもあります。
これらにとどまらず、考え得る対策は多々あるでしょう。
しかし、AIの原理を知り、何ができて何ができないかを理解しなければ、
対策を考える上でのスタート地点にも立てません。
その意味でコンピューターの根本である、数学的な観点から
AIにできること、できないことを整理されている本書は一読の価値があるのではないでしょうか。